第八回(2014年3月24日)

T 『ビフォア・ミッドナイト』はいかがでしょう?
I 『ビフォア・ミッドナイト』?・・・もう、素晴らしかったですよ!
W 見てない、まだ。
T 作品として『ゼロ・グラビティ』と比べるとどうですか?
S・W 比較できるものなの?
T 比較できるものじゃないか。
I えっとね、あー、えっと、実は、『ゼロ・グラビティ』って、何だかんだ言って物語持ってると思うんですよ。で、えーと、『ビフォア・サンライズ』というかリチャード・リンクレイターの話をすると、リチャード・リンクレイターって出来事しかなくて、物語は基本的にない人なんですよ。
S おお。
I で、『ビフォア~』シリーズ、サンライズ、サンセット、ミッドナイトとあるんだけど、えーと、その最後の(作品の)前に、一本ね、『Dazed & Confused』っていう、日本では未公開の作品があるんですよ。
W リンクレイター、そういうのたくさんあるから。
一同 (笑)
W DVDリリースのやつとか
I そう、DVDリリースで、で、これがね、若き日の、あの、今年アカデミー賞とったマシュー・マコノヒーとか、
Y ああ!
I 去年の、アカデミー賞で、作品賞とった『アルゴ』の、監督のベン・アフレックとか、
W ああ。
I あと、ミラ・ジョヴォヴィッチとか、クレジットがないけど、レネー・ゼルウィガーとか。
S おお!
I 無名時代の、あの、まあ、女優・俳優、あの、役者がいっぱい出てるんですよ。で、どういう映画かっていうと、えーと、ある、高校の、えーっと、終業式の日から、その日の翌朝までを、こうダラダラと描いているだけっていう(笑)
T なんかそれもう、様式(スタイル)なの?
S そういうスタイルなんだね、もう。
W まあ、商業的なやつも撮ってるけどね。
I そうそう、で、商業的なやつを撮ると、これが面白いんだけど、リチャード・リンクレイターって、ビッグバジェット渡されると、何やって良いか分からなくなる(笑)
一同 (笑)
I ビッグバジェット渡されると、大体、駄作つくる。
S ちなみに、その駄作って、どんなのがあります?ほんと聞いたこともないような?
I いや、えっとね、とりあえずビッグバジェット渡された最初の作品っていうと、『ニュートン・ボーイズ』とか
S 知らない(笑)
I あとは、これは毀誉褒貶あるけど、『スクール・オブ・ロック』とか、『がんばれ!ベアーズ』とか
一同 ああ。
S はいはいはい。
I この辺がビッグバジェット渡されたやつなんですね。で、『ビフォア~』シリーズはローバジェット。あとは、『テープ』ってやつがあって。この『テープ』がね、芥川の羅生門みたいな話なんだけど、80分の実時間の、中で、えっと、人物が3人しか出てこない。
一同 えー。
I で、ものすごいローバジェットで。モーテルの中で展開されるんだけど、映画自体も80分ぐらいで、実際起こってる話も80分ぐらい。
M ああ。
I 出来事も。
S 三単一。
I その描写がただあるだけみたいな。
一同 へええ。
I まあ、そういう感じの作品なんすよ。だから、『ビフォア・ミッドナイト』に関しても、ほんとにその、夕方?昼ぐらいから、真夜中になるまでの、できごとを(笑)
一同 (笑)
I 淡々とつなげてくだけっていう。
W 三作全部そうだから。
I そう。で、こう、物語とかないんだけど、でも、全部、その、台詞は練り上げられていて。『ビフォア・ミッドナイト』に関して言うと、この、冒頭のね、14分の長まわしっていう。
一同 へええええ。
I 車の中を、ただ、あの、主演のイーサン・ホークと、ジュリー・デルピーが、ずーっと会話してるんですよ。ずーっと会話して14分長回し。
S すごーい!
I ワンカット。
一同 (笑)
I で、一瞬その、何だっけ。あそこにあれがあるみたいにカメラが変わって、カット切り替わるんだけど、セリフはずっと続いてくわけ。
S おお!じゃ、ほんとに長回しなんですね。
I 長回し、1カットだけ、それが挿入される。で、他のあの、場面も、ものすごい長回しが多いんですよ。二人があの、散歩しながら、こう、ずっと会話をしていて、あーだったこーだったて、取り留めもない話なんだけど、で、それ、ずーっとこう撮ってるだけ。で、ほんとにね、その、なんていうか、リチャード・リンクレイター特有というか、その、日常些末、あの、なんにも起こらないっちゃ、なんにも起こらないんだけど、それを、ただ、淡々と描写するっていう。淡々と描写するんだけど、すごい面白い。
S けっこう、うまいこと作りますよね。
I うん。
S あの、とりあえず、三部作だから(サンセットとサンライズを)見ようと思ったら、さすがに今ミッドナイトやってるから、すごい借りられてて、ようやく先日『ビフォア・サンライズ』見れたんですよ。
I ああ。
S で、すごい、かわいい作品だなって思って、
I うん。
S なんか、その、偶然旅で出会って、二人が、こう、翌朝まで一緒にいようっていうので、こう、いろんな、
N 十何年後、またここでって?
S そこ、まだ見てないの!
N あ、そうなんだ。
T ・・・。
S あ、寺尾さんネタバレダメだから(笑)
一同 (笑)
S 国が違う二人なんだけど、やっぱり、こう、別れがたいから、半年後にここで会おうって約束して、こう、二人とも離れていくっていうところで、一作目が終わるっていう作品なんだけど。
I サンライズも、出会うシーンていうのがあるんだけど、そこがものすごく上手く作ってあって。
S おお。
I で、あの、電車の中で二人が会うんだけど、二人が読んでる本があるんすよ。
S あれ何?
I え、それ?
S 分からなかった。
I えっとね、まず、ジュリー・デルピーが、あの、『マダム・エドワルダ』。
S あ、そうだ、バタイユ読んでる!って、すごい二人で爆笑してたんだ。
T バタイユ。
I で、イーサン・ホークは、あのー、クラウス・キンスキーの、あの、自伝
S そうだったんだ。
I を、読んでる。だから、ある意味、二人とも変態をカミングアウトしてる。
一同 (笑)
S すでに(笑)
I あ、お前これ読んでるの!?みたいな。
一同 (笑)
T 分かる人には分かるカミングアウト。
I 表紙見た瞬間に。で、そこ、台詞がなくて、こう、そのカットとして、読んでる本が出るんだけど、この、カットだけで、この二人がこの後どうなっているか分からせる。
S うんうん。
I これはちょっとすごいな、と。
S 確かに、淡々と描いているようで、かなりうまいこと展開させるな、とは思ったんです。
I うん。あの、アドリブはときどき入って来るんだけど、基本的には、このカットからこのカットまでは、きちんと、このセリフがあって、っていうのは練りこまれている。
S 掛け合いがちょっとアドリブっぽい感じもしましたけど、情報自体はきれいに並んでいるなと。
T だから、二作目から主演の二人が脚本にもクレジットされてるでしょう。どのぐらいやってるのかなあ。
I えっとね、だから、完全にね三人でやってる。
S あ、そう。
T もう、脚本書く段階で、
W ふーん。
T その場でどうこうっていうんじゃないんだ。
I そうそうそう。
T それはすごいですね。
I だから、アカデミー賞、今年ノミネートされてたんだけど、なぜか脚色賞にノミネートされてて。
一同 ええ!?
I そう(笑)じゃあ、原作はあるのかっていう。
S あるんですか?
I 原作はないんですよ。で、アカデミー賞って謎なんだけど、明らかに原作あるのに、えーと脚本賞にノミネートされたりとか、原作ないのに、脚色賞になったり、
T よく分からない。
I そうそうそうそう。
S 不思議な賞だなあ。
I 『ビフォア・ミッドナイト』に関して言うと、なぜ脚色賞かって言うと、これは、その、『ビフォア・サンライズ』を元にしてるからだっていう。
一同 (笑)
Y なるほど。
W そういう解釈。
T え、じゃ、スターウォーズ3は脚色賞。
一同 (笑)
I そうなるね!
T ちょっと無理があるんじゃないかな。
I そういう解釈らしいです。
S だってさ、無声映画だからってフランス映画が賞とったりするからさ、なんか、けっこういろいろこじつけだよね。アカデミー賞って。
T なかなか。
S 苦労していらっしゃるんですね、みたいな(笑)
T よくわかんない。

I 『ビフォア~』シリーズって、なんだろう、一緒に年をかさねていったところがあるから、
W ああ。ドキュメンタリー的なところもけっこうある。
I そうそうそうそう。重ねちゃうっていう、自分に。
S そっか!何年後、とかになるわけですね。あ!まだ一作目しか見てないから!ネタバレはやめてね!
一同 (笑)
S あ、いや、いいんだけどね、その、とてもカワイイ映画で。あ、でも、寺尾さんがいないから、今がチャンスだ!
I いや、ほんとにね、あの、何だろう、最初に見たときは、僕、大学卒業した直後で、あのー、あの二人も僕と同世代だから、結構親近感あったわけですよ。当時から。もう、入れ込んでた。で、あの、サンセットが、公開になったときに、その9年後だったと思うんだけど、実際おんなじ年ぐらいになっていて、で、あ、**してるんだねって。
一同 (笑)
I あ、こっち**なんだねって。
一同 (爆笑)
I ってのがあるわけですよ。
S ヤバイ、ネタバレ、ここは伏字だ!
I で、ミッドナイトに至って、あ、紆余曲折あったけど、まあ、まだ、**の*みたくなってるのね、みたいな。でも、あ、ちゃんと**できてないんだ・・・みたいな、とかってゆう・・・。
一同 (笑)
S もう、どんどんネタバレが(笑)
I 割とリアルなところで、こう、ね、あるわけですよ。こう、9年、9年ってスパンでやってるんだけど、こう、その積み重ねみたいなのは、こう、見えるっていうのかな。
S うん。
I そこが、やっぱ僕は、なんて言うのかな、どうしても感情移入を。
S なかなかこう、単純に理屈でなく、こう、思い入れが持てる作品
I そうそうそう、自分の9年がどうだったのかなっていうのが、ちょっと比べてしまうというか
S うんうん。私は、その、89年の波というのが、どうやらあるらしいというのを聞いて、あの作品も、そういう世代っちゃ世代かなって思って。で、今聞いて、確かに本っていう前ふりがあったのかって思ったんですけど、こう、ふと、途中下車して、こう、二人で楽しい時間を過ごすっていう、ふと違う行動を取るっていう感じが、あの時代の特徴・親近感があったのかなって。見ていて思ったんですよ。
I ああ。
S こう、道を、ふと、違う道を曲がってみる。
I うんうん。
S ちょっと、素敵じゃない話をしちゃうと、私にとって、やっぱ同時代で一番ショックだった事件って酒鬼薔薇事件だったんですよ。
N うん。
S で、この、なんて言うか、同時代の人間にとって、あれ、自分もするかもしれなかったっていうのが、すごいショックだったんですよ。だから、ふと、違う道を曲がるように、人が殺せてしまうかもしれない、みたいな感覚があった。だから、その、ふと、こう、いつもとは違う道を通ってるっていう感覚が、何か、こう、90年代を通してあった感覚なのかなって。
I ああ、その、ふと思い立って、この、っていう選択っていうのは、三部作通して語られる。
S あ、そうなんだ。
I うん。
S それが、やっぱ、私達より、お兄さん・お姉さんだと、割とそれがこう、むしろ、素敵な恋ができるのに、幼稚だった私達は、なんか、こう、虫を殺すように、こう、凶悪事件を起こせてしまうんだなあって、感じました。
I ああ。
S あ!でも、すごくかわいらしい作品だったので、是非皆さん見てほしいです。ただし!今『ビフォア・ミッドナイト』効果で、レンタル屋行っても借りられてるんですよ!
T どこに行っても
S ない!みたいな。
M 『ビフォア・サンライズ』?
I サンライズ。
M サンセット、ミッドナイト。で、今、ミッドナイトがやってる。
I そうそう。
S・W 公開中!
Y ミッドナイトまだ見てないんですよね、でもほんとにすぐに見に行った人がいて、ま、これほどまでに、世界に待たれてる恋人たちはいない、みたいに。
一同 (爆笑)
Y なんか、それはほんとそのとおりだなって思って。
T それは、良いですね。
S 私見終わった後、カワイイ!って連呼してました!
W これ以上続くんですかね?
I いや、だから、一応三部作と言ってるので。
W ああもう
I 終わりかもしれないけど・・・。
T サンライズ、サンセット、ミッドナイトに続いて、次何だろう?
Y どう頑張るのか?
W ビギンみたいな?
一同 (笑)
I ビギンズ!?
W ビギン(笑)
T エピソード1みたいな。
一同 (爆笑)
T それぞれの少年・少女時代。
I でもね、その、派生作品もすごく面白くて。その、イーサン・ホークが撮ってる作品と、ジュリー・デルピーが撮ってる作品ってのが、その、やっぱり、『ビフォア~』シリーズをベースに、ちょっと違う
S そうなんだ。
I で、撮ってるんだけど、それもすごく面白い。
S ほんとに!?
I うん。
W ジュリー・デルピーのは見たけど、イーサン・ホークも作ってるんですか。
I イーサン・ホークはね、自分が出てなくて、えーっとね、あの人、カタリーナ・サンディーノ・モレーノ、あの人どこだっけ?エクアドルだったかな?コロンビアだったかな?ま、いーや、その人が出てて、やっぱり、その、いわゆる、恋愛ものをやってるんだけど、えーとね、それは『痛いほどきみが好きなのに』っていう映画。
一同 ふーん。
I 作品なんだけど、これもすっごい良い。
S へええ。
Y ふーん。
I あの、イーサン・ホークの視点だとこういう映画になるんだっていう。
S (爆笑)
I ジュリー・デルピーの視点だとこういう映画になるんだっていう、感じ。
N へええ、
S (爆笑)すごい!気になる!そうか、おんなじように作っているのに
I うん。
S それぞれの視点で語らせると変わるんだ(笑)
I そうそう。
S 面白い。こう、最後に、朝になって、いろんな場所が映るのが、すごい良いなあって。
I ああ、あのね、僕、あのシリーズに関して言うと、あの、こう、「あ!もうじき、映画が終わってしまう!」っていう
一同 (笑)
S うん!
T 「ああ、もうじき朝が!」みたいな。
I それはサンセットも一緒で、「あ!もうじき映画が終わってしまう!」ってなる。
T 「ああ、もうじき日が沈む!」って。
I そうそう。

Y DVD含めても良いですか?
S もちろん、もちろん!
Y これ、すごく賛否が分かれたんですけど。ほんとに久しぶりに、号泣した映画で『カット』。アミール・ナデリ、見てる人いる?
I・W ああ!
W 西島さんのやつ。
S どういうこと、どういうこと?
Y もうね、「映画のために死ね」っていう、タイトル、
M コピー?
Y コピーで、シネフィルによる、シネフィルのための映画、みたいな。
S どういうこと!?
Y なんか、いかにもな感じが
I (爆笑)
W うんうん。
Y うわ、いやだなあと思って。いやらしいって思って。
W (笑)
Y すごい嫌がってたんです。で、ちょうどWOWOWでやってたのかな?
一同 ああ。
Y それを録ってて、で、実家に戻ったとき、すごく気軽な感じに見始めたんですけど、途中からこう、正座して
一同 (笑)
Y 見て、もう、最後本当に号泣して、もう、すごい苦しくなって。
T ふーん。
Y もう、あたし、ほんとにあれは、ほんと、思ってもみなかった。こう、うわあ、ああって。
S でも、苦しくなる系の感動なの?
Y 感動っていうか、こう、ものを作ってる人が・・・あ、私は映画をやりたいと思ってる人間だったので、でも、これはけっこう別れると思いますけど。本当に、その、何だろ。いろんなものがね、こう、すごく真摯につくられてる映画だなって思ったんですよ。
I うんうん。
Y なんかその、いやらしい感じの、映画通好みの、なんかちょっとこの、分かる人にしか分からない、そういうものまぶした感じのではなかった。とても、とてもストレートで、シンプルな映画だった。
S ふーん。
Y で、まぁ、いわゆるシネフィルの滑稽さみたいなのもきちんと描いてて、
W (笑)
Y 最近の映画は、もう魂売ってる、じゃないけど、大衆映画っていうものは、芸術から、もう離れてしまった、みたいな。
W (笑)
Y 映画というものを、自分たちの手に取り戻そうみたいなことを言ってる、なんかこう、狂人みたいな人がいて。自分で劇場(こや)みたいなところで、ほんとにいわゆる名作、大島渚の映画とか、ま、とにかくいろんな映画をやってて、その、名作を、いろんな人に伝えたい、ほんとの映画というものを伝えたいみたいな、ところを思ってる、狂人がいて、
W うん。
Y 自分でも映画を作りたいんですよね。彼は。で、まあ、その、お金を捻出する。あ、でも、その前にあれでしたね。兄の借金だかなんかを返さなきゃ、ま、とにかくお金が必要になるんです。彼は。
S ふんふんふん。
Y とにもかくにも、で、なんていうかな、ヤクザ?殴られ屋みたいなのをやるんですね、一発ごとにいくらみたいな。
T ほお。
Y で、身体を張って、お金を稼いで、そしてその最終的に、また映画を撮るっていうところに持っていくんですけど、なんかね、ほんとにその、
一同 (笑)
Y 最後のところでほんとに、もう、ほんとに自分の命を、もしかして死んじゃうかもしれないぐらいなときに、殴られるごとに、あれなんですよ。一つずつ映画をつぶやくの。

W そうそうそう(笑)
S 何!?
T え、映画のタイトルを?
W 映画のタイトル。
T 殴られながら、東京物語!みたいに。
W そういう感じで。
Y そんな感じ、で、こいつ頭おかしいぞみたいに。
一同 (笑)
Y なんか言ってやがるみたいな。こんなになりながら
T 日本の夜と霧!
Y そうそう。こんなになって。で、それで、最後100をカウントするんですよ。
T ほお。
Y で、こう、一つの拳、一つの映画ってなっていくんですね。
T ほお。
Y で、100からどんどんカウントしていくんだけど、もう、なんか、そこ、すごい、あ、も、もう、最後の10ぐらいになってくると、まだ出て来てない、いわゆる名作が、ああ、あれ出てくるなって分かるし、最後の一本目は、やっぱりねみたいな感じ。
S マジで!?
Y もう途中で彼の耳とか聞こえなくなっちゃって、こう、キーンってなっちゃったりとか、基本的には単調なんだけど、おなじことやってるから。でも、それをすごく、見せるっていうか、
T そこまでして映画を撮るのか?と。
Y そう。
W その、監督のアミール・ナデリっていうのが、イランだっけ?
Y そうです。
I イラン。
W イランの監督で、内容がちょっと、反体制的な内容で、あの、イランってやっぱこう、まだ保守的な国だから、
Y うんうん。
W ちょっとそういう内容だと、もう、作らせてくれないみたいな。
M ふーん。
W ナデリ自身も、あの、現地で作れなくなっちゃったから、その、評価してくれてるこう日本の方の資本で、作った映画なの。
S そうなんだ。
M ふーん。
T 日本とイラン合作映画みたいな感じですかね?
W ああ、たしか
Y あ、でも、一応日本映画です。
W あれは日本映画になるのか。
S そうなんだ!
W 完全な日本映画
T 完全に日本映画なんですね。日本資本で。
Y 出てる人もみんな日本人で、主役の西島さん自体、あの人自身、あれですよね、有楽町とかでやってる映画祭の、審査員っていうか
W ああ
I フィルメックスね。
Y そう、フィルメックスとかでもやってるぐらい、すごい映画好きで、いわゆるシネフィルなんですけど、アミール・ナデリと、こう、すごい、お互い同志だ!みたく
一同 (笑)
Y 映画を!みたいななって、撮ったっていう、その、心意気自体が現れてる映画で。
一同 うん。
Y なんかね、あたしはすごい、『カット』に。
T 映画の作り手としてやはりこう?
Y そう。でね、その後ろの方でね、「映画を撮りたい、生き残りたい!」って言うんですよ!「映画を撮りたい、生き残りたい!」って。
S 誰が?
Y その、彼が、一人でもう、ぶつぶつつぶやきながら。
W もう、ボロボロになりながら、殴られまくって。
Y で、その、映画を撮りたいっていうのと、生き残りたいがイコールであることがすごく分かる。
S・T ふーん。
Y すごく、その、なんか、なんか、その、胸が痛んじゃう。
S うん。
Y っていう意味で、私はすごい『カット』が久しぶりに
W なんか、
Y 衝撃を受けました。
W やっぱ、日本人の監督だと作れないなって映画ではあった。
Y そうそう。
W なんか、こう、政治的なリスクを背負って、やっぱ撮ってる人って、
S うーん。
W やっぱ、なんか、こう、根本的なスタンスがなんか、違うんだなっていう。
T うーん。
S おお。
Y もう、私はですね、引いちゃう人がいるのはすごい分かる。けっこう分かれたみたいですよ。
W まあ、超暑苦しい映画ではあった(笑)
一同 (笑)
T だって、殴られながら、秋刀魚の味!とかでしょ。
W これ、もう、感動していいのか、笑っていいのか分からなかった(笑)
Y そこに入り込めるかで、完璧に分かれる感じだったんですよ。

Y あとは『ゼロ・グラビティ』は、やっぱり、歴史的な映画だなった思ったし。パラダイムシフトだなって。
S それって、前回も言ってたとおり、宇宙空間を現すのが、なんか、これまでにない方法だったってこと?
Y うん、映像がすごいってのは確かにあって。これが撮れるまでに、4年ぐらいかかってるらしいです。
S ふーん。
Y 始め、監督とかが、こういうの撮りたいっていうと、みんなポカンみたいな
I そうそう、意味が分からない。
W 意味が分からない。
一同 (笑)
I 金を出す人が誰もいなくなる。
S (笑)
Y そう、ようやくできて、だから、ほんとに塗り替えちゃったと思いますよね。この前も言いましたけど、今後宇宙の映画を撮るのにすごいハードルが上がったのではと。
W さっき、なんか、リチャード・リンクレイターの、長回しがすごかったっていう話になったけど、
I うん。
W 『ゼロ・グラビティ』も超長回しから始まる。
I そうそうそう。アルフォンソ・キュアロンという人が、長回しすごい好きな人なの。
W ああ、そうですよね。
I この一作前の、『トゥモロー・ワールド』っていうのがあるんだけど、『トゥモロー・ワールド』も13分の長回しっていうのがもんのすごい。
S へええ。
I 「うわ!何これ、どうやって撮ってるの!?」って。
W ただ、リンクレイターの場合、完全にリアルの中でやるけど、キュアロンの場合だと、完全にCG世界で、の、戦いを長回ししてるので。もう、これ、リアルで長回しにしてるのか、
I そうそう。
W 要するに、シュミレートされた、コンピュータの中でシュミレートした空間を、撮影してるっていう。
S あ、そうか!
I 一応人物ずっと映ってるから、ここはワンカットで撮ってるのかなみたいなのは、あるんだけど。
S じゃ、演技してる人たちは、多分、ずっと長回しでやってるんだろうけど?
I と思う。でも、バックの、その、宇宙の空間とかはグリーンバックで撮ってる。
一同 おお。
W 最初の長回しがすごかったのが、こう、最初、俯瞰でただ撮ってたんだけど、だんだんこう、キャラクターに、サンドラ・ブロックに
I そうそう。
W 近づいていって、サンドラ・ブロックの主観映像に変わって、要するに、宇宙飛行士だから、こう、中に、ヘルメット被ってるんだけど、ヘルメットに入ってきて、こう、ヘルメットの内側から、中から見ているっていう映像が入って、また、そして、ヘルメットを越して行って
I 出て行って
W また俯瞰映像に戻るっていう。
T すげえ。
S それは、確かに。
W もはや、現実にはできない映像。
S ですよね。
W まあ、アニメと言っちゃ、アニメなんだけど。
T ある種のアニメですね。
Y あの、『ゼロ・グラビティ』の、スピンオフの、『アニンガ』。息子さん(補:ホナス・キュアロン)が撮った。
W ああ。
S ふーん。
Y その、『ゼロ・グラビティ』の中で、関係してくる。一瞬、地球と交信するんですよ。
W そうそうそう。
I ああ。
Y まあ、ちょっと、ネタバレなんですけど。
W その地球編みたいなやつが、
I あるんだ!?
W WEBに。
Y 調べて下さい。是非!
I あの、ある、映画批評家が言ってたんだけど、『ゼロ・グラビティ』のラストって、あの、ま、サンドラ・ブロックが地球に戻って来るって話だけど、実際地球じゃないんじゃないかって
W (笑)
一同 えええーっ!
S 何、その、逆『猿の惑星』!?
N 分かる、分かる(笑)
I いや、それ、何でかって言うと、最後に交信している、あの、NASAのスタッフが、あの、一番最初に、その、交信してるエド・ハリスじゃないっていう。
S・W (爆笑)
I だから、違う時代なんじゃないか?と。
N 深読み?
W 深読みですよね。
I あそこが地球だって説明はどこにもない、っていう。最後。
Y グラビティはあるが。
I そうそうそう。
一同 (笑)
W なんで、
I だから、それで続編が作られるのではないか、っていう人がいて。
一同 (爆笑)

I 映画の話もう一本すると、『アクト・オブ・キリング』って言うのが
W・Y あーーーー!!!
I 超ヤバイ!
Y ドキュメンタリーですよね?
S 何、何、何?
I 超―ヤバイ!
S マージで!?
I もう、すごい。あのね、あの、ネタバレ的に言うと
一同 (笑)
I インドネシアの話なんですよ。
W そうそうそう。
I インドネシアのスハルト政権下の話で、で、スハルト政権下でレッドパージをやったの。
S ああ。
I で、レッドパージをやって、百万人を殺害したの。その、共産主義者を。で、共産主義者っつっても、共産主義者じゃない人も含まれていて。
S まあ、そうですよね・・・。
I そうそう、で、どういう映画かっていうと、その、虐殺を行った側の人たちが、今、英雄になってるんですよ。
Y うん。
I その、インドネシアの。で、その英雄たちが、自分達がどうやって殺したかっていうのをもう一回演じるっていう。
S ・・・こええ。
I ドキュメンタリーっすよ。
W ドキュメンタリーで。
I すげえヤバイ映画。
S ヤーバイ。
Y 予告編も、すごい、よくできてるんですよね。
I だから、「悪の凡庸」とか言うけど、いや、ほんとの悪って、これ、測り知れないわって。
Y おじいちゃんはね、みたいに言うんですよね。
I そうそうそう。本人達、オレたちは良いことしたと思ってるんだから。
T 面白そうですね。
I で、ヤバイのが、製作総指揮に当たってるのが、ヴェルナー・ヘルツォークと
S やぁだ!もお・・・。
I (笑)あと、エロール・モリスっていう、これ、アカデミー賞取った監督なんだけどね。これもヤバイ人なんだけど。かつてね『死神博士の栄光と没落』っていうやつを撮ってるんだけど、
S うん。
I これ、どういう映画かっていうと、ナチスのアウシュビッツで、いろいろ、拷問する、あの、電気椅子とか、そういう器具を作ってた人なのね。
一同 うーん。
I で、その人が、えーと、ナチスのホロコーストはなかったっていう検証をする映画なの。
S ・・・ヤッバイ。ヤッバイな。
I そういうドキュメンタリーなんだけど、それはエロール・モリスっていう人が監督してて、で、ヴェルナー・ヘルツォークっていう、もう、
S うん。
I 筋金入りの狂人。
W・Y (笑)
I この二人が製作総指揮っていう。
S ・・・もうやだ。
I 『アクト・オブ・キリング』。
S ヤバイな・・・、行かなければ。
T うーん。
Y あ、でも、ほんとに、前評判
W うん。
Y だけでも、すごい、話題になってますよね。
I いや、もんのすごい。で、あのね、この『アクト・オブ・キリング』って、実は、アカデミー賞の今年のノミネートになってるんですよ。
S ふーん。
I で、だけど、その、賞は取れなかった。で、なんで取れなかったって言うと、結局、レッドパージを後ろで操ってたのがアメリカなんすよ。
S・W ああ。
I だから、非常に複雑な状況があって、
Y ああ。
I アカデミーの会員も、これに賞をやるわけにはイカンって!
一同 (笑)
I 結局、アカデミー賞は、もうちょっと当たり障りのない、作品が(笑)
T 『アクト・オブ・キリング』、「殺人の作法」とでも訳しましょうか、
S マジか。
T まあ、鈴木忠志がね(補:正確には鈴木忠志『内角の和』で引用されている郡司正勝『かぶきの美学』の話)、あの、例えば、自分の母親が若いころ、まあ、いろいろ、こう、世間を騒がせた殺人犯がいるわけじゃない、「まむしのおまさ」とか、よく分かんないけど。
S 知らない(笑)
T そういう人たちが、刑期を終えた後に、大衆演劇に身を投じて、自分がやった事件を自分で演じるっていう
一同 ああ。
T っていうのが、けっこうあったと。それが、母親の田舎にも巡演してきて、で、舞台でやってるのを見たような話をよく聞いたものだと、で、鈴木忠志がこういう瞬間、その、「まむしのおまさ」は、果たして何を考えていたのか、と。舞台上で、自分が実際に情夫をこう、寝室に忍び込んで行って、殺すっていう、それを、その瞬間俳優としては、ある種の緊張感が、面白い瞬間なのではないかということを言ってるわけですけど。多分こう、今の話に通じるね、その、いや、すごく面白いと思う。やってる本人は別に自分のこととして認識してないんですよね。多分どこか別の世界の、別の何か、として自分がやってる。
S うん。
T ただ、観客は、その人の、そのものとして、見るっていう。そこの、この、ある種ズレみたいなのが、場合によっては、すごくこうビビッドで、何かこう、代えがたい体験になるんではないかと。
I ああ、『アクト・オブ・キリング』に関して言うと、その、最初は、俺は英雄だった感じで、その、殺しの再現とかやってるんだけど、だんだん心変わりしてくるんだよね。
S へえ。
I で、けっこう、ここらへんの、変化をとらえると面白いかも。