第九回(2014年5月14日)

Su 僕はね、最近、全然見に行けてないんですよ。
S お忙しいもんね。
Su こう、『アナと雪の女王』を見に行ったぐらい。
一同 (笑)
S どうなの?あたし、れりごーのところだけはYouTubeで見たよ!
Su (笑)
Mo 私は日曜日に見に行きます。
S お!
Mo アナ雪は。
Su あれ、まあ、見て全然良いんじゃないかなあと思う。
S へええ。
Su 僕は、あんまりアニメ映画って最近見てないですけど。久しぶりに、なんか
S 久しぶりに、ディズニーが真面目に、あの、遊びに走ったよね。
一同 (笑)
S お前らはそれで良いんだよ!って思ったよね。
Su いいじゃん、いいじゃんって。
W プリンスを必要としない、プリンセス物語。
S そうそうそうそう。いいじゃん、いいじゃん。とうとう、あの、ヒロイン革命がアメリカでもみたいな。
T あれはそういう話なんだ?
Mo あれ、基本的にはフェミニズムの映画だと言われています。
S おっ!?
W そうそう。
Su うーん。
S 遅れてきた?日本の、アニメは90年代にやってるぜみたいな。
M (笑)
Mo 監督も女性。(ディズニーの長編映画では)初めてでしょ、ディズニー。
S え、ホントに!?
Mo 女性監督、シングルマザーの。
一同 へええ。
Mo だから、フェミニズムとクィア理論を理解してないと、あの映画の評価はできないと言ってる人もいる。
W ああ。
S くぃ?
Mo クィア。
W クィアって
Mo おかまって言うか
W おかま、って言うか
Mo まあ、おかま、みたいな、(英語圏での)俗称。
S へええ。
Mo 日本語で言うなら、おかま。
Su へええ。
W セクシャルマイノリティ、全般?
Mo まあ、まあ、「変態」って訳されますね。
W まあね。
S ええっ!
W 変態っていうニュアンスが
Mo 反(アンチ)・正常みたいな。「あんたたちみんな変態でしょう」っていう、ニュアンスが
S あ、じゃ、エルサの
Mo まあ、レズビアンの暗喩ではないかと、
W まあ、そう、ですね。
Su へええええ。
Mo へええ、って(笑)
一同 (笑)
S あらすじを見ると、そういうイメージはなくて
W ま、基本的に、兄弟愛というか
S うんうん
S・T 姉妹愛
Mo ですね。
W 大体こう、ディズニーのプリンセスものっていうのはさ、こう、王子様と、
S お姫様?
W お姫様が、結ばれて、美女と野獣でも、白雪姫でも、何でもいいんだけど、で全て解決みたいなさ、
M・S うん。
W 要するに、えーと、性愛的な、えー、ヘテロな、性愛的なものが、
一同 うんうん。
W 何か、まあ、全て解決
S 大団円みたいな。
W 大団円。それが、今回、その兄弟愛。
M 今までなかったかも。確かに。
W 他人同士ではないけど、一応、兄弟、ま、性愛っていうよりは、友愛って言えば良いのかな。
S・M うんうん。
W が、テーマになってる。ま、王子様も出てくるんだけど
S そう!出てくるんだけど
W ま、そんなにね。
Su そうですね。
W そんなに、問題解決の、重要な位置にはいない。
S むしろ!みたいな
W そうそう。姉妹愛の方が、その、大団円を迎えるために必要になってるっていう。
T そうか、それで、「ついにディズニーが男なんていらないって言った!」って、騒いでいる人がいるのか。
一同 (笑)
W そうそう、ま、そういう見方もできる。ま、ネタバレ的に言うと、姉妹のうち、一人は結ばれるんだけど、もう一人は別に(王子様が)いなくても生きていけるっていう(笑)
Mo (笑)
S うんうん。
T れりごーは、「ありのままに」じゃなくて「ええい、ままよ!」で椎名林檎が歌えば良いんじゃないかって。
一同 (爆笑)
Su (笑)
M (笑)
S 確かにね、確かになんか、ノリとしてはそっち(のニュアンス)だよね。
Su そうだね。
S 「ええい、ままよ!」だよね。
Su それ、聞きたいな(笑)
一同 (笑)
Mo でも、やっぱり、パッと見には、クィア的なものではなく、普通に見られるんだ?
Su 見られる。
S それ(レズビアン、クィアの暗喩に見えるのは)、エルサの、その、特殊能力が、世間からはじかれたものに見えるってこと?
Mo そういう「暗喩」になってるっていうことでしょう。
一同 うんうん。
Mo 雪の女王の、その、変な能力を身につけてっていうか、持って生まれて、世界からはじかれる女性、というのが、レズビアンとか、重ねやすい。
M うん。
S なるほどね。
Mo ただそれが、たまたま重なったのか、作者が狙ってたのかは、分からない。
一同 ああ。
S ディズニーもピクサーに買収されて以来混迷してるからね。
M うーん(笑)
T 久々に、なにかヒットが?
W 『風立ちぬ』より売れてるって話だからね。
S ただね、れりごーも、何であんなに流行ってるんだろうって・・・。
W ま、単純にキャッチーだからね。
S 確かに、日本のアニメ好きにもキャッチーな感じだし、
Su うん。
S シーン的にもね。やっぱ。ふわっ、ってやって、ふわっ、てなると、キャーッとなるよね!
Su なるね(笑)

S ディズニー的な保守っていうか、古き良きっていうか、「メリー・ポピンズは、マジ、ヤバかった」みたいなのはあるよね。
M うん。だから、私、モロそっち系ですよ。
S バンビとかでしょ?(私も)モロそっち系ですよ!
T この間三宅さんに聞いたけど、メリー・ポピンズの作者を
M 今その話しようと思ってたの!
S どうぞ、どうぞ。
M ディズニーつながりで(笑)あの、邦題では、『ウォルト・ディズニーの約束』っていうのなんだけど、原題ではSaving Mr. Banks。
W ああ。
M っていう。あの、『メリー・ポピンズ』の原作者を、ディズニーが20年間口説いて、やっと映画化したっていうストーリーを、ディズニーがやってるの。
S そうなんだ!?
M で、あの、ロンドンに住む、いかにもな、お堅い、あのー、古い、おばあちゃんなんですよね。あの、原作者が。で、「絶対に嫌だ」と。「ディズニーなんか!」と。「あんな、鼠がピョンピョン跳ねて、歌って踊ってるようなのに、私の大事なメアリーを渡すわけにはいかない」って。
一同 (笑)
M 20年拒否してるんだけれども、あのー、金に困って、あのー、受けざるをえなくなってしまうんだけれども、作品づくりに、かなり関与を、させてくれるっていう条件の元に契約をしましょうっていうことで、やると。
S おお。
M で、「アニメ絶対なしね」って。
一同 ええっ!?
M ね、『メリー・ポピンズ』の、あの、
S ああ。
M 「アニメなんてありえない」と。
Mo うん。
M 「ま、そもそも、メリー・ポピンズは歌わないんだけど」と。
一同 (笑)
M で、あの、拮抗しながらやるんだけど。まあ、ディズニーは陽気なアメリカの、あの、おじさんで、それをトム・ハンクスがやっていて。
S ふーん。
M で、原作者の人はエマ・トンプソンって名女優がやってる。エマ・トンプソンが素晴らしかった!
S おお!
M で、ま、最終的には、映画化にこぎつけるんだけど、そこに行くまでの、その、葛藤と、彼女が一体原作に、何を投影して、書いていたのかっていうことの、彼女の半生と、あの、それを徐々に理解していくディズニー側っていうののすり合わせが面白い。
S すごい!
M で、結論を言うと、メリー・ポピンズというのは、ま、あの、子供たちを、ジェーンとマイケルを救いに来たのではなくて、父親を救いに来たんだっていう話なんだけど、
S おおおおおっ!
M それは何故かっていうと、いろいろ伏線があってっていう話なんだけど。いやあ、すごく良くて。
S 良いねえ。
M ま、えげつないと思うのが、ね、やっぱり、過去の、出てくる歌は『メリー・ポピンズ』の歌を、シャーマン兄弟がどうやって作曲していたかを再現することによって、もう、こっちとしては、はうっ!はうっ!ってなる!
S 分かる、分かるよ!!!
一同 (爆笑)
M たぺんす!みたいな!
S あーーー、たぺんす!!!
M っていう、ので、それだけで嬉しいっていうのが、もう仕組みとしてできてるのが、
S あこぎだ!
M あこぎだけど、そのあこぎを、あこぎと思わせないディズニーはやっぱすごいなって。
W・T (笑)
M で、ディズニーをこき下ろせるのは、ディズニーだけであるっていう
S なるほどね(笑)
M あの、その原作者が、あの、アメリカに、ロサンジェルスに着いて、ディズニーと契約をしようっていう場面で、ホテルが、あの、ぬいぐるみがブワーッてあるんですよ。ディズニーの。
W ああ。
M 全っ部ディズニーのぬいぐるみ。で「はあっ?」ってなるの。「あたしは子どもじゃないのよ。」って。で、ミッキーとか投げつける。
一同 (爆笑)
M 「こんなものいらない!」って。
T なかなか(笑)
M いいねえ、って。
S 鼠を倒せるのは鼠だけだと。
M そういうところが、私はアメリカのすごいところだと思うけど。
T そうね、残念ながら懐の広さが違う。
S アメリカのね、自己批判を受け入れる懐の広さはね、
M そうね。
S すごい、と同時にすごく怖い。
M そうね、そこがすごく怖い。
M・S そうそうそうそう。
M 懐の広さを見せることで、やっぱり懐に抱え込んでくる。
S そうそうそう。
Mo ああ。
M あの戦略はすごい。
一同 ああ。
S 分かる!アメリカって、ほんとにすごい国だよね。
M うん。
Mo ああ、分かる・・・。
T で、原題がSaving Mr. Banks。
M そう、Banks。で、原作者のお父さんも銀行員だった。
T うん。
M そこに、やっぱり、いろいろと。
T それが『ウォルト・ディズニーの約束』になる(笑)
S でも、確かにちょっと訳しにくいね。
M まあね。

M 去年の夏だったかな、チェルフィッチュの『女優の魂』見て、
W ああ。
M あれは、面白かった。
W ああ、俺も。
S どういう感じ?
M あの、一人芝居なんですよね。
W そうそう。
S え、一人芝居なんだ!?
M そうそう。その、確か原作が小説なんですよね?(補:「美術手帖」(美術出版社)2012年2月号に掲載されていたとのこと)
W あれ、でしたっけ?
M そうらしいんですよ。
W ふーん。
M 元は小説で、あの、死んだ・・・というか、ま、殺された女優の、本人が、まあ、多分霊なんだろうと
W うんうん。
M という、のが出てきて、如何に、自分が殺されたかというのを語る。
S へええ!
M それを語りつつ、こう、いろいろなんか、こう、チェルフィッチュ的な
S いつもの感じの。
M そう、こういう動きみたいなのをやりながら、台詞を。あと、天国に行ったり、みたいな話も
S えええっ!
M こう、するんだけど(笑)
W まあ、その、岡田さんなりの、演劇論とか、俳優論になってる。
M そうそう。演技論みたいなのを語る。自分がどんな女優になりたかったかとか。
W そうそう。
S あ、そうなんだ。面白い。
M うん。そう、だから、岡田さんの美学みたいなのは出てる。けっこう、その人を通じて伝わってきて。
W そうそう。
S 台詞でってこと?
M 台詞で。「私は演技ってこういうもんだと思っていて」みたいな。
T 言いながら、こう、ふにゃふにゃ、
M そうそう、そういう感じ。
S いつものアレね。
M あの、素直にね、あ、岡田さんって、けっこう真っ直ぐな人なんだなって。
S うーん。
M 演技論的にすごく。と、思ったのと。単純に、女優さんが、あの、『地面と床』とかにも出てる人なんだけど、あの、あそこ、
W 新宿の
M 新宿の、あの、なんとか街
W あ、ゴールデン街劇場。
M そう、ゴールデン街劇場。すごい狭いとこにある。その、空間も良いんだね。狭くて、も、ほんとに、3・40人ぐらいしか入らないところで、もう、あの、フラットで、そこでやって、っていう、彼女の、動き?語りながら、こう、ま、いかにも岡田メソッド的な、だけど・・・なんかちょっと、言葉では、黙って、なんかこう、手の動きで、やったときの、こう、その、空間性みたいなものが、
S うーん。
M その、彼女の身体一つで、一瞬にして出来上がってて。
S すごいね。
M その、コレオグラフィーが、あ、私、岡田さんはコレオグラフィーがすごい好きだけど。
S あ、そうだと思う。
M うん。だから、それこそ『クーラー』とか好きなの。
S・W (笑)
S うん、『クーラー』良いよね
M 『クーラー』、あの、あの、感じがね、今回『女優の魂』にはあったんですよ。
一同 ふーん。
M プラス芸術論みたいな。ま、でもね、単純に面白かった。
W 俺もあれは好きだった。あれは、比較的分かりやすい。
M 分かりやすい。
W 岡田さんがどういうふうなスタンスで演劇をやってるかってのも、分かりやすくて、
T うーん。
W けっこう、かわいらしい作品だった。
S そうなんだ。
M そうそう、男の子との会話とか、面白かった。
W そうそうそう。
M なんか、天国で、会った、美大に通ってたけど挫折して、
W で
M も、グダグダな人生送って、死んじゃった
W (笑)
M っていう、男の子と、なんか、天国で並んでる途中で話すの。
T (笑)
W そうそうそうそうそう(笑)
S (笑)
M だから、地獄八景みたいになってくるの(笑)
W あー、そうそうそうそうそう(笑)
M 設定的に。
S (笑)
一同 ああ。
M そのね、会話が面白い。
S へええ。
M あ、で、その彼女は、彼が美大にいたときに、
W (笑)
M ヌードモデルを、したことがある、美大の男の子だったの。
S ああ。
M だから、一回ぐらい会ってるの、だから。
一同 ふーん。
M ていうのを、語ったりとかして、
W あまりに、その美大生のグダグダぶりに、「脱ぎ損だったよ」みたいな。
一同 (爆笑)
M 「あんたみたいなやつのために、あたしは脱いだの?」って(笑)
W そうそう(笑)お金はもらったけどみたいな。
T 楽しい(笑)
M そう!
S (笑)あ、そうなんだ。
M あれは、すごい面白かった。

S チェルフィッチュって、一大出世作になった『三月の五日間』とか『クーラー』とかはさ、動きがすごい面白かったから、それがまたあるっていうのは良いね。
M うん。
S あ!チェルフィッチュって、説明しますね!
M あ、そうか。
W えーと(笑)
S 私あまり分からないから・・・。
W こうして言われると、確かに(説明が)難しいね。
S デビューというか、出世作が『三月の五日間』って言って、イラク戦争が開戦したときに、ラブホテルに、五日間、いて、乱交していた?人たち、みたいな設定で、ずーっとグダグダ、こう、「わたしたちは~」みたいに。で、このグダグダな動きが、振付のようにも見えたりする、という、芸風というか、作風で。すごい、ヨーロッパなんかでも売れてる人で。その・・・
M その人が、あの、テクストも自分で書いて、やるんですけど、そのテクストの書き方ってのが特殊で。あの、普段のこういう会話とかの、感じをそのまま。要は、いかにも台詞みたいなのじゃなくて、なんかこうつまったり、「えーっと」、「とかなんとかー」、「うーん」とか言ったりとか、そういうような台詞を書いて、で、キッチリそのままやらせるっていう。
W そうそう。
M 俳優にはなかなか大変な。なんか、でも、元々その手法をやったきっかけって言うのが、それこそ、なんか、昔、アルバイトで、インタビューの
W 文字おこし
M テープおこしを
W そうそう。
M 文字おこしをやってて、で、如何に人間が無駄な言葉を言ってるかっていうのに、気付いて、こういう台詞を書こうと、なったらしいんですけど、「うーん」とか、「あー」とか、「いや、そういうことではなくて」、「~なんですけどー」
W 「けどー」(笑)
M とか、そういうのが、特徴的な。
W 日常会話の中で、今やったような動きを、ちょっと、こう、コンテンポラリーダンス的なのを使って、ちょっと、まあ、踊りのようにも見せてる。
S だから、コレオグラファーとして評価する人もいるし。
M 実際なんか取ってるもんね?
S そうそう、TOYOTA CHOREOGRAPHY AWARD。
W あ、アワードじゃないけど・・・
S・M あれ、そうでしたっけ?
W 選ばれただけ。
S 最終?
W そうそう、賞は取ってないんだけど、
M ノミネート?
W 最終選考に、ノミネートされた。
M その、私も好きな『クーラー』というのは、もっと前に
T あれ、『クーラー』って、『三月の五日間』より前なの?
M 何が?
W 『クーラー』の方が古いけど
T 『三月の五日間』より
S あたし『三月の五日間』より後だと思ってた!
M あー、その後に
W けっこう、
M クーラー、なんとか、ホットペッパーみたいな。
S あ、そうだ、ホットペッパー。
T ああ。
M そしてお別れの挨拶か。(補:正確には『ホットペッパー、クーラー、そしてお別れの挨拶』)あれは、もっと後。
W そうそう。
M あ、『クーラー』というのは、その、オフィスで、女が、クーラーが効きすぎて寒いっていうのを、ただただひたすら訴えていて、それを聞いてる男が、なんか全然関係ない話とか、ま、要は、ちょっとその男が女を口説きたいのかなっていう、
W (笑)
M 微妙な感じを、交えつつ、もう無駄な動きとかいっぱいしながら、こうやって会話をしているっていう、だけの、作品なんですよ。
S なんかさ、オフィス経験があるとさ、クーラーの温度を上げてってさ・・・(笑)
M 分かる、分かる(笑)
S (爆笑)
M あの会話、分かるよね(爆笑)。あれ、絶対あいつだよみたいな。
W (爆笑)
S なんか、オフィス勤めしたことあると、クーラーの温度って、分かる(笑)
M あの、みんなの冷蔵庫に入ってたあれがないとかね。
一同 (笑)
M 「あれ、あと何個あったのに」みたいな。
S そうそう(笑)
M そういう、あの、女の会話ってのはね・・・。
S そうそう・・・。
M その、『クーラー』というのが面白くて、それがそのCHOREOGRAPHY AWARDにノミネートされた?
W ノミネート、トヨタのやつ。多分。
M いわゆる、ほんとに、ダンスっぽいやつじゃなくて、こういう日常の身振りを、
S うん。
M ただ繰り返したり、それこそ、デフォルメしたりするだけで、コレオグラフィー的に見えるっていう。
T ま、じゃあ、チェルフィッチュという一つの集団の、その俳優としての、成果が、その、
S 『女優の魂』?
T 『女優の魂』に
W ん、ああ。
M うん。
T 見られると言って、一応良いのかな。
M 言えるんじゃないかな。
W うん。
S ああ、すごいね。
M プラス、その、中身との関連が。
W そうそう。
M 彼の、芸術論が、ほんとに素直に出てると思う。
S・T ふーん。

W (『女優の魂』の)戯曲は、美術手帖かなんかに載ってるんだよ。
S 岡田利規、あれは、文学賞は、何を取ったんでしたっけ?
W あれは、大江さん・・・。
S あ、そうだ!大江健三郎賞だ!
W あれは、『三月の五日間』の小説版だから。
S あ、そうだったんだ!
W だっけ?確かね。
S 『三月の五日間』、あれはあれで、全共闘世代のおじいちゃんとかにもウケるように書かれているという意見を聞いたことがあって・・・。おじいちゃんたちには、「若い者はなんで運動しないんだ」みたいのがあったときに、『三月の五日間』が一つ回答してるっていう。あの、イラク戦争が始まったときに、私たちは、グダグダとラブホテルにいるんだっていう。その、街でデモしてる人たちとの温度差みたいな。そこが逆に。
W・M うーん。
W けっこう、あれ、ヌーヴェルヴァーグの映画みたいなところがあるんだ。
M ああ。
W あの、『アデュー・フィリピーヌ』(補:ジャック・ロジエ監督)っていう映画があるんだけど。
T あでゅ?
W 『アデュー・フィリピーヌ』。その、イラク戦争、じゃなかった、アルジェリア戦争に、その、徴兵されてる男が、徴兵される前に、どこだっけ・・・島(補:コルシカのようです)・・・に、女の子と遊びに行くっていうだけの映画。
一同 ああ。
W で、最後、アルジェリアに出発するところで、男が一人で船に乗って。女の子二人と行くんだけど、女の子は見送るっていうところで終わる。
S・T へええ。
W ま、映画全体で言うと、だべってるだけって言うか、いちゃいちゃしてるだけなんだけど。
M うんうん。
W その、背後の方に戦争があるっていう。
T ただ、まあ、そこで目の前に実際に戦争に行かないといけないっていう明確な現実がぼんとあるのか、全くその、言わば隔絶したところで、言わば無責任に
W うんうん。
T グダグダしてるかってのは、ま、けっこう、
W まあ、
T 違いとしては大きいかなって。
M 確かに。
Mo 『四畳半襖の裏張り』に近いかなって。
S そういうのがあるの?
M 四畳半?
Mo うん。
T 四畳半?
Mo 『四畳半襖の裏張り』(補:永井荷風作と言われる『四畳半襖の下張』の映画版)
T 『四畳半襖の裏張り』。
Mo 映画では神代辰巳が監督。日活ロマンポルノの。
S ほほう。
Mo あの、原作はあれよ、永井荷風。
S えっ!そうなの!?
M ああー。
Mo 裁判になったやつで。
W ああ。
Su へえ。
Mo 私は映画しか見てないけど。男と女が、ずっと待合の旅館でセックスしてて、その裏には、米騒動?かな?
一同 ああー。
S あ、そうなんだ。
Mo でも、画面に出てくる男と女は、ずっと、ただ、しっぽりセックスをしてるっていう。
T・S おお。

S で、『アクトオブキリング』の解説をしてほしいんです。
I 解説!?(笑)
一同 (笑)
I みんな見たの?
S えっと、見た人!あ、3人。
I はいはい。
W 僕は体調が悪くて、
S そう和田さんは
W あんま集中して見られなかった。
S という状態らしい。
W もう一回見ようかなって。
I いや、えっとね、いくつか言いたい事はあるんだけど、んーっとね、終わりの方で、何だっけ、アン・・・
S おじいちゃん?
W おじいちゃん?
I おじいちゃん。
S ああ。
I おじいちゃんが、何か、割とこう、なんて言うんですか、自分がやってることに対して、こう、なんか良心の呵責みたいなものが芽生えてきて、最後、最後っていうか終わりの方、こう、なるじゃないですか。あれ、あれを演劇療法、心理学で言うと、みたいに言う人いるんだけど、いや、それ、もしかして演技じゃないのって
T・S うーん。
I 見えちゃって、僕は。
S さっき言ってたのが、ま、(映画自体は)ボアールのワークョップっぽいんですけど、もし監督が演技でやらせたんでなければ、おじいちゃん自身が誰かの前で演じるのをずっと待ってた「演技」かも知れないなって。
I ああ。
S あのおじいちゃんて、すごい、「映画」マフィアだから、むちゃくちゃいっぱい映画を見てる。
I そうね。
S だから、やりたいって言って演技し始めたわけだから。例えば、その、ボアールワークショップとかを、聞いたことがあったかもしれない。だから、自分であの「演技」をしたいって。ま、意識的にか、無意識的にか、ずっと思ってたんじゃないかって。
I ああ。
S ちょっと思って。
I そうなんだ。でも、あの、周りの人達は、あの、映画内映画に出てた人たちは、「こうやったら俺たち、まるでサディストみたいじゃないか」って、分かってるわけじゃないですか。
S うんうん。
I 分かってるってことは、これは、もう、最後まで、一見そうは見えても、実は演技って構造になってるかも知れないなって。
W・S うんうん。
I っていうふうに僕は見てた。
S アウグスト・ボアールがそういうワークショップをするんですけど
I そうね。
S ただ、あまりにもセオリー通りオチ過ぎてるから・・・。それで、(ドキュメンタリーではなく)作ったような気がするし、で、もし、作ってないとしたら、おじいちゃんが、っていうふうに思ったんですよ。
I あのね。分かんないんすよ。で、あのー、バックについてる、二大変人が、
一同 (爆笑)
I あの、エロール・モリスっていう人と、ヴェルナー・ヘルツォークという二大変人が、バックでついてるので、もう、これ、何とも言えないんすよ。
T 何をやっても
S 何をやっても不思議ではない?
I ヘルツォークは、実はモキュメンタリーみたいなのを作っていて。
W (笑)
I あのね、僕、すごいショックだったんだけど、『10ミニッツ・オールダー』っていう、有名監督が参加して、10分の映画を作るみたいなのに参加してて。その中で、あのー、ドキュメンタリー作ってて。アマゾンの、未開の地の、ま、ある部族が、えーと、10分間、その、西洋から来た人たちに、接していたら、あの、1万年分の進化を遂げてしまった。
一同 (笑)
S 去年『おばけのはなし』のときに
I そうそう、それ。その、ウルイウ族?っていうのを、取材したって言うんだけど、でも、そのウルイウ族っていうのが、日本語で検索するとその映画しかヒットしない。
一同 (爆笑)
I で、これは、騙されてたんじゃないか!?って。
M・S (爆笑)
I で、ありうる!と思ったの。
M ああ。
I ヘルツォークのことだから。で、実は『アクトオブキリング』に関しても、バックにヘルツォークがいるから、これはどっかで、もしかして仕込みがあるかもしれないっていう風に思ってたんですよ。
S うーん。
I 一見ドキュメンタリー風に作りはしてるんだけど、どこかで、なんか、プロットみたいなのが、仕組まれていて、っていうのは、大いにありうるなって。
S うんうん。
I 思っていて、一方で、エロール・モリスっていう人。この人も相当変な人なんだけど、有名な作品だとね、『ヴァーノン・フロリダ』っていうやつと、『フォッグ・オヴ・ウォー』っていう、えーとね、(『フォッグ・オヴ・ウォー』は)ロバート・マクナマラっていう、えーとね、ヴェトナム戦争のときの、国防長官?だったのかな?で、世界銀行の総裁だったりしたんだけど。ま、その人のドキュメンタリーなわけ。
S うん。
I で、まあ、ヴェトナム戦争をどういうふうにやってたかを、ま、白状させるみたいな(笑)
W (笑)
I 映画なんだけど。もう一本、『ヴァーノン・フロリダ』っていうのは、ヴァーノンっていう田舎町で、殺人事件が起きて、で、ブチこまれた人間がいるんだけど、モリスが調べたら、どうも、あの、証言の内容が嘘くさいっていう、ので、徹底的に調べて、それ一本の映画にしたの。
S ほお。
I 証言を全部拾って、そしたら、「あれ、これ冤罪じゃね?」って話になって、裁判のやり直しがその映画で始まっちゃったの。
一同 おお。
I で、結局その人無罪になっちゃったんだけど、
一同 おおお!
I で、ま、要するに、映画を、作る、その、公開することで、なんて言うの、政治的に介入して、ま、世の中変えちゃうぐらいの勢いがある。そういう作品をやってる人なの。
S うん。
I で、こういう人とヘルツォークが組んでるから(笑)。分かんないのよ!
S どっちだ!
I どっちなのか!
一同 (笑)
T その二人はどういう立ち位置?
I ま、プロデューサーみたいな
T なるほど。
S ただね、何となく作ったにしては、いちいち映像がきれいなのと
I そうそう。
S おじいちゃんが妙にスタイルが良いんだよ。
一同 (爆笑)
I あのね、編集が上手すぎるの。
S おお!
I すげえ上手いじゃん、これって。何時間取材したの、インタビューっていう。
S 8年間っていうけど?
I そう、で、まとまりがきれい過ぎるなって。一つ、僕、やっぱ気になったのが。
一同 うん。
I きれいに、まとまり過ぎてる。で、破たんがない。もっと破たんがあっても良さそうなもんだけど。あの、おじいちゃんの心の変化みたいなものが、割と直線的で、ま、直線的に編集したんだろうけど。
S うん。
I もっと、こういう感じで、あそこにたどり着くみたいな、ふうになるんじゃないかなって。
S 実は、かなり最初の方から、自分達のやってたことが残酷だったって言ってるんですよね。
I うん。
S だから、それと、映画とかをからめることで、昇華していたようなのが、最後出てくるだけにも見える。「だけ」っちゃあ、「だけ」みたいな。